人を雇用する前に知っておきたい労務管理の基本

人を雇うなら知っておくべき最低限の労務

前回【会社を興す前に知っておくべき最低限のWeb基礎知識】でWebの基礎知識について書きましたが、今回は労務に関して。

ひと昔前であれば起業前はもちろん、起業後も労務管理について起業家がそこまで知っていなくても社労士さんなどに全部任せるという形が一般的だと思いますが、現代は経営者であっても最低限の労務管理の知識はなければいけない時代だと思いますし、「知らなかった」では済まされない一発アウトの時代だとも思います。

ということで、ちょうど先日、社会保険労務士の方に改めて色々と基礎を叩き込まれましたので、自分自身のアウトプットと、今思えば自分自身も起業前に知っておいて損ではなかったと思う程度の最低限の労務管理の基本について書きたいと思います。

労務管理の基本

まず労務管理とは、会社が健全な労使関係を維持するためのサポートをする業務を言います。
=会社と従業員さんの関係を良好なモノにするためにやるべきこと

具体的な例は
・適切な働き方、休み方
・正しい給与計算
・就業規則の作成
・労働条件通知書の明示
・社会保険の加入
などを設定することなどをひっくるめ「労務管理」と言われています。

それでは早速、労務管理の基本から。

労働時間

まず、一番大事なことは労働時間です。

【1日8時間まで・週合計40時間の原則】

上記は絶対に頭に入れておきべき原則です。

そして、労働時間と滞留時間(そうではない時間)を厳格に区別管理する必要があります。
=労働時間にのみ給与支払い義務が発生

休日

2つ目は休日です。

週1回以上の休日を与えることが義務付けられています。

ではなぜ週休2日の会社が多いのはなぜでしょう?

それは①の労働時間が関係します。

1日8時間×週6日だと週合計48時間になってしまうからです。

残業してもらうために必要なこと

では上記原則の中、残業してもらうにはどうしたらいいのでしょうか?

それは【36(サブロク)協定】と呼ばれる書類を会社所在地管轄の労基署に提出することによって、1日8時間を超え・週1回の休日に働かせてよいということになります。

労基署が会社に来た場合、必ずこの36協定はチェックされます。

36協定とは具体的に
・残業の上限時間を決める
・休日労働の上限回数及び時間を決める

給与支払いの5原則

次に給与支払いについて。

給与支払いの5原則というものがあり、それは以下になります。

①通貨で
②全額を
③毎年1回以上
④一定の期日に
⑤直接労働者に支払う

次に給与計算について。

まずは最低賃金以上の設定にすること。

弊社所在地の東京であれば2019年現在の最低賃金は1,013円です。
※毎年10月1日に更新

この最低賃金はアルバイトなどだけでなく、社員さんも一緒です。

その他では1日8時間を超える部分は25%割増・22時以降は同じく25%割増・未払い残業代は過去2年遡って請求される(現在厚労省は3年に伸ばす方針)なども知っておいた方が良いでしょう。

適正な労働時間管理

次は労働時間について。

まず、労働時間を管理することが重要です。
→使用者自ら確認するか客観的記録(タイムカード・ICカードなど)が必要で、自己申告制だけでは不十分

有給休暇

次は有給休暇について。

有給休暇とは、入社日から6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に10労働日の有給を与えなければなりません。

また、アルバイトの人にも有給はつきます(働き方によって付与日数は異なる)。

健康管理

次は安全配慮義務について。

使用者は労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をしなければなりません。
安全配慮義務

具体的には、雇入れ時&1年以内ごとに1回の健康診断を健康診断を実施する必要があります。

また、上記は正社員だけではなく、週の労働時間が正社員の4分の3以上かつ1年以上雇用されている方にも健康診断を実施する必要があります。

ちなみに、労働者50名未満の小規模事業場の事業主や小規模事業場で働く人を対象として、労働安全衛生法で定められた保健指導などの産業保健サービスを無料で提供している下記センターもあります。
地域産業保健センター

労働条件通知書(雇用契約書)

次に労働条件について。

まず、使用者が労働者を雇い入れる時(パート・アルバイト含む)は、賃金・労働時間その他の労働条件について、書面の交付により明示する義務があります。
=労働条件通知書(雇用契約書)

上記労働条件通知書に記載すべきことですが、絶対的記載事項と相対的記載事項があります。

【絶対的記載事項】
・契約期間及び更新について
・就業の場所及び業務内容
・始業終業休憩等
・休日休暇
・賃金

【相対的記載事項】
・退職金及び賞与等
・退職

就業規則

次に、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、上述した労働条件通知書より更に詳しい会社のルールを記載した就業規則を作成する必要があります(作成しただけでなく、労働者へ周知する必要があり、いつでも見れる状態にしておかなければならない)。

就業規則があると、使用者と労働者の職場トラブルを未然に防止することができ、労働者も安心して働けるメリットがあります。

こちらも絶対的記載事項と相対的記載事項があります。

労働保険(労災保険+雇用保険)

次は、人を雇った場合に加入しなければならない労働保険(労災保険と雇用保険)について。

労災保険:業務中・通勤中に起きた怪我や病気について保険給付(原則従業員のみが対象の労災保険に使用者(社長)も加入することができる特別加入制度もあり)
雇用保険:週20時間以上かつ1ヶ月以上労働する場合は原則加入→失業時や育児・介護休業中・訓練受講の保険給付

加入場所は異なり、労災保険は労基と呼ばれる自社の管轄する労働基準監督署で、雇用保険は管轄のハローワークでの手続きになります。

労働保険料は業種によって金額が異なりますが、労災は全額会社負担になり、雇用保険料は通常給与総額の従業員が3/1000・会社6/1000を負担します。

業種によって保険料は異なると上述しましたが、弊社のようなIT企業が年収400万円の従業員を一人雇用した場合、給与総額の12/1000がかかります。
=400万円×12/1000=48,000円

社会保険(年金+健康保険)

最後は社会保険です。

常時使用される者が5人未満の個人事業主さんなどは加入義務はありませんが(国民年金・国民健康保険に個人で加入)、法人事業所であれば厚生年金・健康保険に会社で加入しなければなりません。

また、正社員だけではなく週労働時間が30時間・月労働日数が15日以上のアルバイトさんなども加入させる義務があります。

私は2011年の起業時、経営者(使用者)は社会保険ではなく国民年金に入るものという認識だったのですが、年金事務所から連絡があり、加入義務について教えられました。

年金:老後の生活費・障害・遺族を保護するための給付
健康保険:業務外の怪我や病気についての給付

具体的な例を挙げると

(例)協会けんぽ(東京都)・月収20万円の従業員を雇用した場合
標準報酬月額200,000円
健康保険(9.9%)19,800円
厚生年金(18.3%)36,600円
=従業員負担28,200円・会社負担28,200円

という感じになります。

最後に

人を雇うと色々と作らなければいけないモノ・加入しなければいけないモノが増えます。

また、雇った後の労働契約の解消(退職勧奨・解雇)も、しっかり理解しておかないと、後々労働契約法で制限がかかることがあります。

これから起業しようとしている方や、まだ人を雇う予定がないという方なども、ざっくり上記情報を頭に入れておいて損はないと思いますので、簡単ですがご紹介させて頂きました。

※Webの基礎知識については【こちら